ひとひらの 雲白く耀る 秋ひと日
時の流れの とどまらざらん
曽祖父の歌集泰寧庵より 菁升書
静かに佇む思い出の庵
昨年、五島列島に旅をして野崎島という無人島に行きました。
かつてキリシタンの人たちが済んでいた野崎島には、深く真っ青な海を前に教会だけが残っていました、漁で得られる僅かなお金で建てた美しい教会でした。
普段人の多い都内で慌ただしい生活をしている私にとっては、今現在もなお、同じ瞬間に存在している、誰もいない教会にふと魂が持っていかれるような、不思議な気持ちになります。
そんな感覚を作品にしたいと思い書き始めたのが今回の作品です。
同じような気持ちになる場所の一つに、曽祖父の隠居屋だった那須の泰寧庵があります。
105歳まで元気だった曽祖父のもとに、お盆や正月は親戚で集まり自然の中で遊んだ記憶が強く残っています。
曽祖父とは文通もしていたこともあり、私の中では近いのに遠い不思議な存在でした。
朝起きたら、墨をすり、歌を詠み、そんな暮らしをしていた曽祖父の短歌集、泰寧庵から一首上記の歌を選びました。
毎年集まっていた親戚や知り合いも、たくさんの人が鬼籍に入り、今はもう集まることもなくなってしまったけれど、今も泰寧庵は那須にあり、豊かな自然に囲まれています。毎年訪れる度に、庭木の成長に驚かされます。
そんな自分の心にある大切な場所を、古来多くの日本人が行ってきた様に漢字と仮名を織り交ぜて自然に書く。
気を衒わず当たり前を忠実に、今回の作品を作りました。







書壇受賞に輝く作家展 書道展の鑑賞について
①書壇受賞に輝く作家展とは
日本を代表する主な書道団体の最高賞受賞者が選抜され
その団体の書風をもとにした作品を一堂に展示する展覧会です。 日本の主な書道展の書風を合わせてご覧いただく、鑑賞の学びにも最高の機会です。
②書風について
私は所属する、書道一元会の代表として出品いたします。
書道一元会は、1972年に田邉古邨を中心に創立されました。
田邉古邨は東京学芸大学の書道科を創設し、書写書道教育の発展に大いに寄与した人物です。
本人の書風は、漢学と自ら詠む短歌を元に、漢字と仮名を別の書として分けることなく、自然に入り交ぜた書を追求しました。

各団体にはそれぞれの歴史と書風があります。
おおよそは、その創設者の書に対する考え方と、美的感覚をもとに、書作品の良し悪しが決まっていきます。
例えば
・中国の書が本家本元であるという考えのもと、中国風の書を追求する流派
・平安仮名こそが日本人の書であるという考えのもと、仮名文字の美しさを追求する流派
・アメリカを中心とした現代アートの影響を受け、線や文字そのものの形に着目した新しい表現の流派
などがあります。
一元会は多くの日本人が手紙や短歌俳句で自然に行ってきたように、漢字と仮名を自らに取り込み、一体化させるという表現を追求しています。
また、文字をデフォルメしたり、独自に崩すことなくあくまでも文字は文字として読めることを大切にしている団体でもあります。
茶道や、香道、美術鑑賞がお好きな方にも活きてくるのではないでしょうか。
書家であった祖父が、芸大で書の講習を受けていた際に出会い、師事したのが田邉古邨であり、祖父自身が一元会の立ち上げにも参画していました。
その流れで私もご縁をいただき現在も一元会で学んでおります。
2月21日(金)からは東京都美術館にて第53回書道一元会展も開催されます。
よろしければどうぞそちらもご覧ください。